幼 児
昨日、用事があった外出先からの帰り、
駅でバスを待つ間、1台前のバスが混んでいたので
次のバスにした。
トップに並んでいたので、前のバスの乗客が見える。
まだ発車時刻前だ。ふと、視線を感じて
バスの方を見ると、小さい女の子が父親と一緒に
席に座っている。私から見える位置の席だ。
歳は、2歳くらいだろうか。おかっぱ頭に
白いブラウス、赤いスカート。
父親は、30代半ばだろうか。
女の子を何回か抱っこするが、
その度に女の子は、父親の腕をすり抜けて
床に降りてしまう。そして、私の注意を引こうと
色んなポーズを取る。
なんとなく、(いやだな・・・)。
そう思った。途端に、女の子は、床に腹ばいになった。
(え?そこまでする?)
洋服が汚れるのも構わず、完全にバスの床に
ヤモリのように、ベタっと貼りついている。
あるいは、蜘蛛の様に。ますます、気味が悪い。
顔を見ると、ほとんど黒目といっていいような目つき。
笑っているが、幼児の笑いとは違う不気味さ。
(なんだろう、この子)と思うと、
その女の子は、黒目で私をじーっと凝視してきた。
背筋がゾクっとして、これは目を合せては
いけないタイプだと思い、慌てて日傘で私の顔を隠した。
すると、声が聞こえたような気がした。
それでも、絶対に顔を見せてはいけないと
こちらも頑張る。すると、他の乗客がパラパラと
乗り込んで、とうとうその子供は見えなくなった。
そして、発車時刻になり、バスは行ってしまった。
ほっ、助かった。それにしても、バスの運転手や
立っている乗客もいるのに、まるで皆見えていないようだ。
普通は運転手は、危ないから小さいお子さんは
抱っこしてくださいとアナウンスするはずだ。
父親だって、子供があんなに私の方を見ていれば、
普通の親は気付いて、子供の視線の先を見ることが多い。
なのに、全くこちらを見なかった。
あんな、昼日中、大勢のいる場所で、
幽霊なんて見えるんだろうか。
そして、私にだけ見えていたんだろうか。
今、思い出しても、腕の鳥肌が立つ。
こちらが油断していなくても、あちらが興味を持ったら
危ないということだ。日常のどこに、ああいった存在が
いるか分からない。気付いたら、絶対に視線や
波長を合せてはいけない。呼びこまれるか、
ついてくるかも知れないからだ・・・。
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